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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)11687号 判決 2000年11月21日

新潟県<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

荒木和男

近藤良紹

川合晋太郎

大阪市<以下省略>

被告

フジチュー株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

村上正巳

主文

一  被告は、原告に対し、金九四一三万一四六六円及びこれに対する平成八年一一月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二億三八八三万〇五二七円及びこれに対する平成八年一一月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が商品取引員である被告を通じて商品先物取引を行ったところ、被告による新規委託者保護義務違反、説明義務違反、無意味な反復売買等の債務不履行により損害を被ったと主張し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、先物取引による損害二億一四八三万〇五二七円、慰謝料四〇〇万円、弁護士費用二〇〇〇万円の合計二億三八八三万〇五二七円及びこれに対する右取引終了の日である平成八年一一月七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  基礎となる事実(証拠を挙げない事実は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、中学卒業後の昭和三三年から鮮魚商を営み、昭和四六年からは料理屋を兼業し、昭和五六年以降は専業で料理屋を経営する者である(弁論の全趣旨)。

(二) 被告は、商品取引所法の適用を受ける商品取引所における上場商品の売買及び売買取引の受託業務等を業とする株式会社である。

本件当時、B(以下「B」という。)は被告金沢支店主任、C(以下「C」という。)は同次長、D(以下「D」という。)は同支店長であり、E(以下「E」という。)は被告の管理部長であった。

2  事実経過

(一) 原告は、平成七年一一月頃、雑誌に掲載された被告の広告を見て、被告金沢支店に対し、金の売買についての資料請求を行った。

(二) 原告は、平成八年一月二五日、被告に対し約諾書(乙二)を差し入れ、被告との間で、商品先物取引に関する委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(三) 原告は、本件契約に基づき、被告に対し、次のとおりの現金三億一五二八万一八一六円及び金地金二五キログラムを交付した。

(1) 平成八年一月二五日 六〇万円

(2) 同月三〇日 二〇〇〇万円

(3) 同月三一日 一五〇〇万円

(4) 同年二月二日 五〇〇万円

(5) 同月六日 二億三九二三万五三七六円

(6) 同月二八日 三五四四万六四四〇円

金地金一五キログラム

(7) 同年三月二二日 金地金一〇キログラム

(四) 原告は、本件契約に基づき、別紙一覧表のとおりの取引(以下「本件取引」という。)を行った。

(五) 原告は、平成八年一一月七日(甲九の104)、本件取引を終了させた。

原告は、本件取引により、二億一四八三万〇五二七円の損失を被り、被告は、本件取引により、一億一四一九万八九〇〇円の手数料を得た。

3  被告の義務

(一) 説明義務

商品取引員が一般委託者との間で先物取引委託契約を締結する際には、契約締結に先立ち、委託者に対して事前交付書面(乙一)と受託契約準則(甲四・以下「準則」という。)を交付した上、基本的知識について詳細に説明するとともに、取引の投機的本質について危険開示を行い(甲一・商取法九四条の二、準則三条、フジチュー株式会社受託業務管理規則(以下「管理規則」という。)四条)、十分な理解を得なければならない。

(二) 新規委託者保護義務

全国商品取引所連合会(以下「全商連」という。)の定める受託業務指導基準は、商品取引員は取引所指示事項及び日本商品取引員協会(以下「日商協」という。)の受託業務に関する規則(甲三〇・以下「自主規則」という。)を遵守するよう定めており、自主規則七条では、会員は社内規則として受託業務管理規則を定めることとされ、被告は、右規定に基づき、管理規則を定めている。

被告は、管理規則により、新規委託者について取引開始から三か月を習熟期間とし、右期間中の委託者に関しては、外務員が独自の判断により受注できる枚数を二〇枚とし、管理担当班の審査を経た場合はこの枠を拡大することにしている。また、被告は、原告との取引当時、被告との間で新規の委託者であれば、他社での取引経験の有無にかかわらず、右管理規則を適用する取扱いをしていた(証人E)。

三  争点

1  被告に債務不履行が存するか。

2  被告に債務不履行がある場合には、原告が被った損害額はいくらか。

四  争点に対する原告の主張

1  争点1(債務不履行の存否)について

商品取引員たる被告には、先物取引委託契約に基づく債務の内容として、委託者である原告に、投資勧誘・業務行為の過程において、情報提供だけでなく、助言・指導をすることが義務づけられている。

しかし、被告は、平成八年二月二六日、同年一〇月満期の日本興業銀行リッキーワイドを解約した二億三九二三万五三七六円の金員を具体的な取引の注文なしに預かった上、次のとおり、故意に不合理な取引を行い、委託手数料を取得しており、債務の本旨に従った履行を行わなかった。

(一) 説明義務違反

被告は、第二の二3(一)の説明義務を負っているにもかかわらず、原告に対し、右説明を全くしなかった。

(二) 新規委託者保護義務違反

被告は、第二の二3(二)の新規委託者保護義務を負っているにもかかわらず、右義務に反して、平成八年一月二五日から同年四月二五日の三か月間に、次の取引を行った。

(1) 東京金 合計四〇五一枚(別紙一覧表「東京金」の番号1ないし19、24ないし27、34ないし36、46、48、49・以下、カッコ内の数字は別紙一覧表の取引番号を示す。)

(2) 東京白金 合計八五〇枚(「東京白金」1ないし12)

(3) 東京ゴム 一〇〇枚(「東京ゴム」1)

(4) 東京とうもろこし 合計八三枚(「東京とうもろこし」1、3、5、6)

(5) 米国産大豆 合計一一〇枚(「米国産大豆」1ないし3、5)

(6) 東京粗糖 一〇枚(「東京粗糖」1)

(三) 無意味な反復売買

被告は、次のような無意味な反復売買により、手数料稼ぎをした。

(1) 途転

被告は、東京金二五〇枚の買玉(「東京金」46、48、49・以下、本項((三))においては、特に指定のない限り、東京金に関する取引を示す。)のうちの二〇〇枚を平成八年五月一〇日に手仕舞い(50ないし52)、同じ日に二五〇枚の売建玉(54)をして途転を行っているが、途転は、相場観の変化など特段の事情がない限り、顧客にとって手数料の負担のみが増加する合理性のない取引であるところ、被告の行った右の途転には、何らの合理性もない。

(2) 両建

被告は、次のとおり、両建を頻繁に繰り返すとともに、値洗いで損が出た建玉は最後まで残しており、極めて不合理な取引を行っていた。

ア 平成八年二月二三日における両建

平成八年二月二二日の時点での東京金の建玉は、買玉が一〇月限五二六枚、一二月限一六二五枚であり、同月二三日の時点で追証を入れる必要はなかった。しかるに、被告は、同月二一日、原告に対し、五〇〇〇万円を追証として入れないとお金が戻らない等と告げて、同月二三日、一〇月限合計五〇〇枚(13ないし16)、一二月限合計八〇〇枚(15ないし19)の売玉を建てて両建を行い、右売玉の必要証拠金合計七八〇〇万円が加算された結果、追証を生じさせた。

さらに、右売玉の内三五〇枚を、わずか二週間ないし四週間の間に手仕舞って(20ないし23、37ないし44)、六三四万三五五四円の損害を生じさせた。

イ 平成八年六月二〇日から同年一〇月三一日までの両建

被告は、平成九年四月限東京金四五〇枚の売建玉(53、59、62)と四五〇枚の買建玉(82ないし84)により両建を行い、その後も同年一〇月三一日まで右両建の状態を継続させたが、被告がいかなる見通しで両建を行ったのか不明である。

ウ 平成八年八月一三日から同年一一月六日までの両建

被告は、平成九年六月限東京金五〇〇枚の買玉(97ないし99、109、110、120)と二〇〇枚の売玉(134、135)を両建とし、その後も同年一一月六日まで右両建の状態を継続させたが、被告がいかなる見通しで両建を行ったか不明である。

(四) 不合理な手仕舞い

損害が出ることが明らかであるにもかかわらず、建玉を手仕舞う場合としては、①限月が近づいた場合、②証拠金の関係で建玉が維持できない場合、③損害の拡大を防ぐ場合が考えられるが、被告による次の手仕舞いは、右①ないし③のいずれにも当たらず、不合理である。

(1) 東京金(20、47、51、60、177、182ないし200、233、273、274)

(2) 東京白金(13(不抜け)、15(不抜け)、19ないし23)

(3) 東京コーン(4)

(4) 東京粗糖(2)

(五) 無敷き・薄敷き

無敷き、薄敷きによる取引は、商取法九七条及びこれを受けた準則一〇条により禁止されているところ、被告は、次のとおり、無敷き・薄敷きにによる取引を行った。

(1) 平成八年二月二三日 四七六二万九六二四円

(2) 同年五月一〇日 二六九七万三〇四七円

(3) 同月一四日 三五九七万三〇四七円

(4) 同年七月一日 一二一万七二九四円

(5) 同月一〇日 一一三万八五七七円

(六) 向かい玉

向かい玉とは、顧客の建玉に対応して商品取引員が反対玉を建てる自己行のことであり、顧客の損失によって業者が益となるものである。被告は、次のとおり、原告の建玉に対応して向かい玉を行い、原告に損害を与えた。

(1) 東京金(4、10、12ないし19、46、49、54)

(2) 東京白金(1)

(3) 東京ゴム(4)

(4) 東京粗糖(1)

2  争点2(損害額)について

原告は、次のとおり、本件取引によって、合計二億三八八三万〇五二七円の損害を被った。

(一) 本件取引による損害 二億一四八三万〇五二七円

原告は、被告に対し、現金三億一五二八万一八一六円及び金一キログラムの倉荷証券二五枚を預託したが、被告から原告に対して返還を受けたのは一億〇〇四五万一二八九円のみであった。

(二) 慰謝料 四〇〇万円

(三) 弁護士費用 二〇〇〇万円

五  争点に対する被告の主張

1  争点1(債務不履行の存否)について

商品取引員と委託者の契約内容は、準則によることが法定され(商取法九六条)、準則には、原告主張の助言・指導を義務づける規定は存しない。被告が顧客に対して提供する助言・指導は、サービスであって、義務ではない。

(一) 説明義務違反

Bは、本件契約に際し、原告に対して、ガイド(乙一)及び準則を交付し、関心が強かった金の取引の仕組みや危険性等について具体的に説明した。原告は、既にエース交易株式会社(以下「エース交易」という。)で取引を行っていることもあって、Bの説明をよく理解し、約諾書(乙二)に署名押印して取引を開始したのであり、被告には、説明義務違反はない。

(二) 新規委託者保護義務違反

原告は、本件取引開始後の平成八年一月二九日、Cに対し、建玉を増やしたいとの意向を示した。Cは、原告の他社との取引の経験等から、習熟期間中の外務員判断枠を拡大する手続の準備をし、同月三〇日、建玉要請書(乙二〇)を受領し、被告の管理担当班が審査した結果、判断枠を三四〇枚以上に拡大することとなったものであり、被告には、管理規則違反はない。

(三) 無意味な反復売買

(1) 途転

原告指摘の取引は、相場の動きに対応するために、損切りをして反対の売玉を建てるという取引であるから、合理性のある取引である。

また、原告は、平成八年三月二三日に一部両建にした後、Cの助言により売玉を縮小している状態であったが、同年五月一〇日に、原告の金の買玉に追証がかかり、エース交易の助言・指導もあってか、原告自身が買玉を仕切って売玉を増やしたのであるから、買玉の損切りと反対建玉には十分な根拠がある。

(2) 両建

ア 平成八年二月二三日の両建について

Cは、同月二一日、原告に対して追証が生じたとのアラーム通知をした上、同月二三日、原告の助言・指導の求めに答えて、損切り、追証を入れる、難平、両建という四つの方法を説明したところ、原告は、買建玉の約半数分の両建をすることを選択した。Eは、同日、原告に電話をかけて右両建が原告の意思によるものであることを確認した。

その後、D及びCは、原告との間で両建を拡大せず、追証を入れるとの方針を協議決定し、Cは、相場動向から両建にした方の売玉の損切りの助言をし、原告は、損切りと認識しながら仕切注文を行ったものであり、右取引に関する原告の主張は当たらない。

また、両建によって、追証が増加したり発生したりすることはない。

イ 平成八年六月二〇日から同年一〇月三一日までの両建について

原告は、同年五月以降、Cらの助言を採用しないことが多くなり、他社の助言・指導を採用して注文を出していたから、右時期以降の建玉については、被告の助言による取引ではない。

ウ 平成八年八月一三日から同年一一月六日までの両建について

イに同じ。

(四) 不合理な手仕舞い

原告が不合理と主張している取引は、いずれも原告の注文に基づくものであり、また、すべて損切りの場合であるが、原告自身、損切りを推奨する旨の主張をしているから、右主張は論理矛盾である。

さらに、原告の主張は、結果論であって不当である上、原告は、損が出る時期に仕切れば手数料稼ぎと結論づけるが、結果が損でも利益でも手数料は同額であるから、損切りから手数料稼ぎを証明することはできない。

(五) 無敷き・薄敷き

追証は、その日の最終値段で計算するから、発生したその日には入金されないのが原則であり、その日の必要証拠金額に追証の金額を入れれば、その日に不足がでるのは当然である。

また、無敷き・薄敷きの禁止の趣旨のうち、委託者保護の面は建玉の際に問題になるのであり、追証とは場面が異なる。

(1) 平成八年二月二三日 四七六二万九六二四円

被告は、同日、原告に対して右金額を請求したが(乙一一)、同月二四日、翌二五日が土日であったことや原告が猶予を申し出たため、少しの間待つことにし、同月二八日に原告から小切手で三五四三万六四四〇円、金の倉荷証券で一五キログラム(一四七〇万円)の預託を受けた。

(2) 平成八年五月一〇日 二六九七万三〇四七円

被告は、同日及び土日を挾んだ同月一三日に、原告に対し、不足額の請求をして(乙一一)協議した結果、原告は、追証を入れるのではなく、同月一四日、一〇〇枚を仕切り二〇〇枚を売り建てする方法で対応した。

(3) 平成八年五月一四日 三五九七万三〇四七円

被告は、同日、原告に対し、不足分を請求して(乙一一)、原告と協議した結果、原告は、翌一五日、金の買玉一〇〇枚を仕切る方法で対応した。

(4) 平成八年七月一日 一二一万七二九四円

原告は、同日、金一〇〇枚を買建てしたので、右同額の不足分が生じたが、帳尻金が三〇七万八七一七円あり、原告の指示で翌二日に振替が行われており、翌営業日正午までに入金されているから(甲九の61)、何ら準則違反はない。

(5) 平成八年七月一〇日 一一三万八五七七円

原告は、同日、金一五〇枚を買建てしたので、右同額の不足分が生じたが、帳尻金が一五四万〇四五九円あり、原告の指示で翌一一日に振替が行われており(乙九の66、67)、何ら準則違反はない。

(六) 向かい玉

原告の向かい玉の主張は、商品取引員が委託者の建玉に対して反対玉を建てた上、委託者に売買損を発生させて自己玉に売買益を発生させるというものであるが、委託玉と自己玉のいずれが利益になるかはその後の相場の動向次第であり、商品取引員が相場の動向を支配しているわけではなく、自己玉が売買損を出すことも多いから、原告の右主張には理由がない。

実際、本件取引期間は、平成八年一月二五日から同年一一月七日までの間であるところ、被告の同年四月一日から平成九年三月三一日までの自己玉の売買損益は、二二四六万円の損失であり(乙二六)、仮に向かい玉の状態であれば、被告の委託者は被告の損失によって利益を得ていることになるから、原告の主張には根拠がない。

2  争点2(損害額)について

すべて争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四当裁判所の判断

一  認定事実

前記第二の二の事実に、証拠(甲一ないし五、九の1ないし104、一〇、一五、二八、三八ないし四四、四六、乙一、二、三の1・2、、一一、一二、一七ないし二二、三三ないし三八、三九の1ないし16、四〇、四一、証人C、同D、同E、同B、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、中学卒業後の昭和三三年から鮮魚商を営み、昭和四六年からは料理店を兼業し、昭和五六年以降は、専業で料理店を経営する者であり、従来から、利殖の方法として金地金を一キログラム単位で購入しており、平成七年頃には、自宅に金地金二〇キログラムを所有していた。

2  原告は、平成七年一〇月頃、エース交易が株式店頭公開を記念して金地金を特別価格で販売するとの広告を見た際、その価格が一般小売価格よりも一グラムあたり五〇円安かったので、エース交易から金地金を購入することとし、同月一九日には、エース交易から、金地金二キログラムを購入した。

3  原告は、平成七年一〇月一九日、原告宅に原告が購入した金地金を持参したエース交易大宮支店長のF(以下「F」という。)に対し、今後は資産を金で保有するつもりであること、日本興業銀行のリッキーワイド約二億四〇〇〇万円が平成八年一〇月末日頃に満期になるので、これを利用して先行き二〇〇キログラムから三〇〇キログラム程度の金地金の購入を考えていること、原告自身は金の値段は今後相当値上がりするのではないかと考えていることを話した。

これに対し、Fは、原告に対し、東京工業品取引所では、一年先までの金の値段が売買されており、金が値上がりしたとしても、先物取引の制度を利用すれば、現時点でいわば頭金を支払って売買契約を締結し、後に残金を支払うことによって、現在の値段で金地金を購入できるのと同じことになると説明して、金の先物取引を行うよう勧誘した。

4  原告は、平成七年一〇月二七日、エース交易に対し、さらに金地金三キログラムの購入を申し込んだ。

そこで、Fは、同日、右地金を持参して、原告宅を訪問するとともに、金の先物取引を行うよう再度勧誘したところ、原告は、現時点で前記のリッキーワイドを解約して金地金を購入すれば、リッキーワイドの利息金が取得できなくなるため、Fの勧めに従って、先物取引を行い、後に現引きをする方法で金地金を取得すれば、金の値上がりにも対処できるとして、魅力を感じ、同日、平成八年一〇月に金地金を現引きするつもりで、エース交易との間で、先物取引を開始し、まず一〇枚の買建てを行い、その後、同年一月一六日までの間に、合計六回にわたり、限月を同年一〇月及び同年一二月として、合計一六〇枚の買玉を建てた。

Fらエース交易従業員は、これらの取引にあたり、原告に対し、先物取引について一応の説明をしたが、原告は、先物取引によって投機をする意思はなく、限月には現引きをして、金地金を取得するつもりであったので、先物取引の仕組みについては、現時点で証拠金を支払えば、後に残金を支払うことによって、現在の値段で金地金を現引きできることになること以外は、十分には理解していなかった。

5  原告は、Fが訪問時に参考として置いていった雑誌「月刊スーパービジネスマン」を読み、右雑誌に掲載されていた被告の広告を見て、被告が金投資のための入門ビデオ等の資料三点を無料で配布していることを知り、今後、資産を金に変える上で参考になればよいと考えて、平成七年一一月二〇日、被告に対し、右広告の綴り込み葉書を送付して、右資料を送るよう求めた。

6  これを受けて、被告は、原告に対し、右請求に係る資料を送付するとともに、当時、被告金沢支店主任であったBが、同月二三日に原告宅に電話をかけ、また、同年一二月一日以降は、約一か月の間に四、五回にわたって原告宅を訪問して、原告に対し、さかんに金の先物取引を行うよう勧誘した。

なお、Bは、同月二一日、右資料請求の葉書を基に、原告の住所と名前を記載した「見込・顧客カード」(以下「本件カード」という。)を作成したが、原告からは、面談当初、先物取引の経験がないと聞いたので、その際には、本件カードの商品取引経験欄の「なし」の部分に丸を付けた。

7  原告は、Bから勧誘を受けるたびにこれを断り、平成八年一月五日頃には、Bに対し、既にエース交易に金二〇〇キログラムを注文しており、同年一〇月には約二億四〇〇〇万円の預金が満期となって、同月末には右注文分の金の現物を引き取ることになっていることを説明して、これ以上金を購入する予定はない旨述べた。

8  しかし、Bは、その後も原告宅への訪問を続け、熱心に金の先物取引を行うよう勧誘したところ、原告も、ついには根負けし、金一〇キログラム程度であれば、被告から購入してもよいと考えて、平成八年一月二五日、被告に対し、先物取引の危険性を了知した上で原告の判断と責任において取引を行うことを承諾する旨記載された約諾書を提出し、証拠金六〇万円を預託して、同年一二月を限月とする金一〇枚の買建てを行った。

原告は、この時点でも、被告と先物取引を行うとの意識はなく、後に金の現物を取得する意思しか有しておらず、Bに対しても、その旨述べていた。

このため、Bも、その際には、本件カードの「商談成立までのチェックポイント」のうち原告の興味を記載する欄には、「最終的に現物(金地金)を手元に引けること」と記載した。

また、原告は、右約諾書提出の際、Bから、「受託契約準則」や「商品先物取引委託のガイド」の交付を受け、先物取引については、追証等の一応の説明を受けたが、右準則やガイドを全く読まなかった上、先物取引を行うという意識はなかったので、被告が初回の売買報告書とともに送付する「委託者へのアンケート」の「担当者の説明を理解したか」の質問に対しては「はい」ではなく「大体わかった」の欄に、「委託追証拠金(追証)制度を知っているか」の質問に対しては「知っている」ではなく「大体知っている」の欄に、「売買損益金の計算の仕方」については「説明を受けたがよくわからない」の欄にそれぞれ印を付けて、返送した。

9  被告は、Bから報告を受けて、原告がリッキーワイドの満期償還金約二億四〇〇〇万円を使用して、平成八年一〇月にエース交易から金地金二〇〇キログラムを現引きしようとしていることを知り、Bや金沢支店次長のCのほか、支店長のDが、その後も原告宅を頻繁に訪問し、原告に対し、被告ではエース交易に支払う予定の金地金の代金を有利に運用できる旨述べて、右代金等を被告に運用させるよう強く求めたところ、原告は、右8の建玉が値上がりしていたこともあり、被告に金員を預ければ、被告が同年一〇月までの間金の売買によって右代金等を有利に運用してくれるものと考えて、同年一月二九日にはこれを承諾した。

Dら被告従業員は、当時、原告について、三か月以内は二〇枚とする新規委託者の保護に関する管理規則を遵守する意思は全くなく、原告に制限を大幅に超える玉を建てさせて、その有する資金のほとんど全部を被告との商品取引に拠出させようと考えており、被告管理担当班に対し、原告が超過建玉を行うための内諾を得た。

10  BとCは、平成八年一月三〇日、原告から、右9記載の趣旨で二〇〇〇万円の交付を受けるとともに、原告に、右時点までに入金した証拠金合計二〇六〇万円分の建玉に相当する超過建玉を「三四〇枚以上」と記載した建玉要請書に署名押印させた上、Cは、同日、原告について、三三〇枚の買建玉を行った。

11  被告金沢支店は、同日、被告管理部から、前記8のとおり、「委託者へのアンケート」において、十分理解していないとの回答をしている旨の連絡を受け、Cが、同月三一日、売買損益の計算方法を説明するために、改めて原告宅へと出向くとともに、原告からさらに一五〇〇万円を受領して、二五〇枚の買建玉を行った。

この際も、原告は、右9のDらの説明によって、被告が同年一〇月までの間原告の資金を有利に運用してくれるものと信じており、同年一〇月に現引きする資金を喪失する危険を冒してまで被告と先物取引を行う意思はなかったので、Cから、先物取引の追証制度や売買損益について一応の説明を受けた際も、十分に理解することはできなかった。

12  原告は、その後も、被告に対し、同年二月二日に五〇〇万円を、同月六日に前記リッキーワイドを解約して、保証小切手により二億三九二三万五三七六円をそれぞれ入金し、被告は、原告について、同月一九日までに合計二一五一枚の東京金の買建玉を行ったほか、同年二月七日からは、東京白金の取引を開始し、同月一四日までに合計三〇〇枚の買建玉を行った。

これらの建玉全部を限月に現引きするとすれば、当時の価格を前提とする限り、決済資金は原告の資金量を大きく超えるものであり、原告が現引きすることは到底不可能な状況であった。

原告は、この間も、被告から、売買報告書の送付を受けていたが、後記14のとおり、被告のE管理部長に被告との取引の内容を確認するまでは、一度も売買報告書の内容を確認したり検討したことはなかった。

13  Fは、平成八年二月上旬頃、金の価格が上昇したため、一度手仕舞いをして、利食いをするよう勧めたが、原告は、限月に現引きをする意思であったため、これを断った。

しかし、その後、金の価格が低下してきたため、原告は、Fの助言を受け入れて、同月二九日に利食いをした後、翌三月一日に再度買建玉を行った。

14  原告の被告における建玉については、平成八年二月二一日、金の値段が下がったため、追証が生じたが、原告の入金額が同日発生した追証額よりも多額であったため、新たに入金する必要はなかった。

Bらは、同日、韓国旅行中であった原告に対して電話をかけて、金の値下がりと円高の二重の問題により、新たに五〇〇〇万円の追証を入れなければ、既に預託した金員が返還できなくなる旨伝えた。

原告は、Bからこのような連絡を受けて驚き、帰国後である同月二二日、DやE管理部長に確認し、同人らから、原告に約一億五〇〇〇万円程度の損失が生じていることを知らされた。

15  Cは、平成八年二月二三日、原告を訪問し、当時預託が必要ではなかった五〇〇〇万円の追証を出すよう求め、値下がりに対処する方法として、完全な両建ではなく、新たに一〇限月五〇〇枚、一二限月八〇〇枚の売玉を建てて、必ずしも両建の利点を行かせない一部両建の状態とするよう勧めて、これらの建玉を行った。その結果、原告の委託証拠金には、右新たな建玉の必要証拠金と追証拠金を合わせて、四七〇〇万円以上の欠損を生じさせた。

また、DとCは、同月二六日、原告宅を訪問し、同日には相場の回復によって追証が発生していなかったにもかかわらず、原告に対し、五〇〇〇万円の追証ができたか確認をするとともに、追証を入れなければお金は戻らない、追証を入れてくれれば必ず取り戻す旨を述べて、追証を出すように迫った。

このため、原告は、被告に入金するために母親や妻名義の預金を解約するなどして資金の手当をしたが、証拠金としては、三五四四万六四四〇円しか用意できなかった。

そこで、原告がその旨をCらに伝えると、同人らは、エース交易で購入した金地金を拠出するように述べたので、原告は、同月二八日、Cに対し、右金員と一四七〇万円に相当する金地金一五キログラム(倉荷証券として一五枚)を交付した。

Cは、右一部両建とした売建玉のうち一〇〇枚を平成八年三月八日に、同一〇〇枚を同月一二日にそれぞれ損切りという形で仕切った。

16  CやDは、平成八年三月二二日頃、原告に対し、追証問題が再び生じたのでエース交易から購入した残りの金地金を拠出するように申し向けたので、原告は、同月二二日、Cに対し、原告が所有していた金地金の残り一〇キログラム(倉荷証券で一〇枚)すべてを交付した。

17  原告は、この頃には、このまま被告に任せておいたのでは、エース交易との取引の建玉を現引きできなくなるのみならず、すべての現金資産を失いかねないと考えて、被告従業員らの助言を信用しなくなり、それまでにFから勧められて、エース交易との取引で利食いをしたこともあって、以後は、被告従業員らの助言にはそのままは従わず、被告従業員らやFの助言を参考にした上で、自らの判断に基づき、それまでの損を取り返そうとして、積極的にエース交易や被告と先物取引を行うようになった。

このようにして、原告は、金の現物を取得する目的で先物取引を開始したにもかかわらず、平成八年三月二二日、エース交易との取引において、合計一一〇枚を仕切って利食いをしたのを契機として、被告との取引でも、合計二〇〇枚を仕切って利食いをし、その後も同年五月頃までは、常時三〇〇〇枚以上の建玉を、同年六月以降には四〇〇〇枚以上の建玉を、同年七月以降には四五〇〇枚以上の建玉を、それぞれ維持しながら新規建玉と仕切を繰り返した。

18  また、原告は、エース交易との間で、平成八年四月二九日に東京白金、同年四月一一日に東京とうもろこし、同月一二日に東京米国産大豆、同月一六日に東京ゴム及び東京粗糖、同年五月一日に神戸ゴム指数、同月八日に前橋乾燥繭、同月二九日に東京小豆の先物取引をそれぞれ開始し、これにやや遅れて、被告との間でも、同月一一日には東京とうもろこし、同月一六日には東京米国産大豆、同月一八日には東京粗糖、同月二五日には東京ゴムの取引を開始したが、結局、原告は、これらの取引によっても、それまでの損失を回復することはできなかった。

19  原告は、平成八年一〇月二七日、Fに対し、被告発行の同月二四日付け売買報告書を見せて、被告との取引について説明し、同月末には金地金の現物が引けなくなったと述べて、被告との取引の手仕舞いについて相談した。その後、Fは、原告に対し、値動きを見ながら被告との取引の手仕舞いについて助言し、原告は、同年一一月七日までに、Fの助言に従いながら、本件取引をすべて手仕舞い、被告との取引を終了した。

20  被告は、原告に対し、平成八年三月二二日に一二万三六〇〇円、同年五月二日に一五〇〇万円、同年一一月一二日に八五三二万七六八九円を、同月一日に金地金二五キログラムをそれぞれ返還した。

二  争点1(債務不履行の成否)について

1  説明義務違反の存否について

前記第二の二3(一)のとおり、被告には、顧客との間で先物取引委託契約を締結する際に、当該顧客に対し、事前交付書面と準則を交付した上、先物取引の仕組みや危険性について十分な説明を行い、顧客の理解を得る義務があると認められるところ、第二の二の事実及び右一の認定事実によれば、原告は、事前交付書面と準則を受領した上で本件契約を締結しているものの、B、C及びDは、原告と先物取引を開始するにあたり、先物取引の仕組みや危険性について、原告が理解するに足りる具体的かつ的確な説明をしたと認めることはできない。

原告は、本件契約締結当時、自らの資産を金で保有することを希望しており、後日金の現物一〇キログラムを受領することを目的として、現物売買の頭金を支払うつもりで証拠金六〇万円を差し入れたものであり、先物取引の仕組みや危険性について十分理解していなかった上、被告従業員らは、原告が平成八年一〇月に償還を受けるリッキーワイド約二億四〇〇〇万円を利用してその頃にエース交易から金二〇〇キログラム程度を現引きすることを意図した先物取引を行っていたことを知り、本件契約締結後も、同月までの間に右預金を有利に運用する旨申し向けて、さらに被告と先物取引を行うよう求め、原告が先物取引の仕組みや危険性について十分に理解していないのを奇貨として、本件契約締結後わずか五日後には三三〇枚もの買建玉を行い、一か月以内には実に二一五一枚もの異常な買建玉を行っており、原告の保有する現預金をはるかに上回る取引を反復継続しているのであって、その態様は詐欺的とすらいうべきであり、被告社員らが原告の理解力に照らして説明義務を尽くしたということはできない。

これに対し、被告は、原告は既にエース交易との間で先物取引を行っており、被告従業員らの説明を十分に理解していたと主張するが、右一の認定事実によれば、原告は、エース交易との間でも、平成八年一〇月に金の現物を受領するつもりで取引を行っていたにすぎず、本件契約当時である同年一月頃、Fが原告に対して利食いを勧めたところ、原告はそのままでよいと返答してこれを断わり、一旦建てた玉を仕切ることなく保有していたことが認められ、原告の本件契約当時のエース交易における取引態様、取引開始からの期間や取引数量に照らすと、原告は本件取引開始時点において、先物取引の危険性を理解していたと認めることはできない。

2  新規委託者保護義務違反について

前記第二の二3(二)のとおり、被告は、取引開始から三か月の習熟期間中は、被告管理担当班が許可した場合を除き、新規委託者から受注できる枚数は二〇枚までとする管理規則を置いており、右規定は新規委託者の保護育成の見地から商品先物取引の危険性を熟知させるために一定期間勧誘を自粛する趣旨の規定であるから、右規定を遵守することは、委託契約上、商品取引員に対して要請される委託者に対する信義則上の義務であると解される。

そこで、本件について検討するに、右一の認定事実によれば、原告は、本件契約締結前からエース交易との間で先物取引を行っていたことが認められるものの、エース交易との契約締結は平成七年一〇月二七日であって、本件取引のわずか二か月前であり、その取引態様も平成八年一〇月に現物を取得することを目的として、買建玉を長期間保有するものにすぎなかったから、原告は、本件契約締結当時、真の意味での先物取引の経験者とはいえず、また、前記第二の二の事実によれば、被告においては、被告との間で新規の委託者であれば、他社での取引経験の有無にかかわらず、前記の管理規則を適用する取扱いをしていたのであり、この意味でも原告は新規委託者に該当することになるものである。

しかしながら、原告は、資産を金で保有することを望んでいたにもかかわらず、平成八年二月六日に約二億八〇〇〇万円を入金した後は、同年二八日と同年三月二二日の二回に亘って追証を請求された際に、従来から保有していた金地金二五キログラムのすべてを拠出しており、本件取引の数量は、本件契約締結直後の平成八年一月三一日には五九〇枚、約一か月後の同年二月二三日には三四五一枚となっており、その後は三か月の習熟期間を通じて常に三〇〇〇枚以上という異常なまでに多量な建玉を維持していることに照らすと、その取引量は原告の余剰資金の範囲内であったということはできない。

また、被告は、原告に対するアンケートによってその理解度が判明する前に、管理担当班が原告に対する超過建玉を許可しており、Cら被告従業員は、前記管理規定を順守する意思は全くなく、制限建玉数を大きく上回る建玉を行っていたものであり、原告が特にこのような取引を望んだ事実も認められないことに照らすと、原告が相当程度の資力を有していたことを考え併せても、被告には、原告が自らの判断に基づいて先物取引を開始するに至った平成八年三月二二日前の取引について、原告に対する新規委託者保護義務違反が存することは明らかである。

3  無意味な反復売買について

商品取引員は、先物取引委託契約に関して、顧客の利益に反する無意味な反復売買を行ってはならない注意義務を負っていると解されるところ、右一の認定事実によれば、Cらは、平成八年二月二一日に原告に対して追証が生じた際には、原告が既に預託していた金額に照らすと、新たな入金をする必要がなかったにもかかわらず、韓国旅行中であった原告に電話をかけて、五〇〇〇万円の追証を入れなければ預託した金員は返らない等と申し向け、その後も、追証に関して十分な説明をすることなく、再三追証を出すように迫り、同月二三日には、両建の必要性について十分な説明をすることなく、むやみに両建を行って、右建玉に相当する手数料を取得した上、右建玉によっても追証状態は解消せず、逆に右建玉の必要証拠金と併せて原告の証拠金不足を生じさせているのであって、右各取引については、前記の注意義務に違反したというほかない。

4  被告の債務不履行の内容について

このようにして、被告には、右1ないし3のとおり、本件取引に関する債務不履行があるから、右債務不履行によって原告に生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。

なお、原告は、右各注意義務違反のほかにも各種の注意義務違反を主張するが、本件各証拠に照らすと、いずれも被告の債務不履行があったと認めるには至らない。

三  争点2(損害額)について

1  被告との取引による損害額について

(一) 第二の二の事実及び前記一の認定事実によれば、原告は、平成八年三月一四日までの東京金の建玉及び同月二一日までの東京白金の建玉について、これらを仕切ることにより、別紙一覧表の差引損益欄記載のとおり、東京金の建玉については合計九一九八万八五二五円、東京白金の建玉については合計一五六七万五八〇八円の総合計一億〇七六六万四三三三円の損失を被ったと認められる。

これに対し、同月二二日以降の取引については、それまでの建玉を仕切ったものを除き、原告が自らの判断において取引を行ったというべきであるから、右取引によって被った損失については自ら負担すべきものであり、被告にその責任を問うことはできない筋合いである。

(二) ところで、前記一の認定事実によれば、原告は、現物を取得するつもりで本件取引を開始し、先物取引の危険性等について被告担当者から十分かつ的確な説明を受けていなかったとはいうものの、自ら料亭を経営する相当な資産家であり、かねてから金の現物を所持し、金相場が変動することを認識しており、先物取引に対しても理解力が全くなかったとまではいえないこと、また、原告は、本件契約締結に際しては、被告から「受託契約準則」や「商品先物取引委託のガイド」を受領しながらこれを吟味せず、安易に被告に多額の資金を交付して、資産運用を委ねた上、売買報告書の送付を受けてもその内容を確認しなかったこと、さらに、原告は、Eと連絡を取る等して原告に損失が生じていることを認識した後は、先物取引の危険性につき身をもって認識し得たもので、早期に取引を中止し、損失が拡大する事態を防ぐ機会は十分にあったにもかかわらず、被告から追証を請求された際にも、漫然とこれを拠出するなどして、平成八年三月二一日まで被告の助言や指示に従って取引を継続したものであり、原告の側にも、損害の発生拡大について一定程度の過失があったといわざるを得ず、これらの事情をも斟酌すると、前記認定の損害額から、原告の過失を二割として控除するのが相当である。

(三) 以上によれば、原告が被告に対し、本件取引によって生じた損害のうち賠償を求めることができるのは、八六一三万一四六八円である。

2  慰謝料について

前記一の認定事実に照らすと、本件訴訟においては、右1による損害の回復を超えて慰謝料の請求を認容するまでの事情は認められない。

3  弁護士費用について

本件訴訟の専門性、難易度等に照らすと、弁護士費用相当の損害金としては、八〇〇万円と認めるのが相当である。

4  総損害額について

右1ないし3によれば、本件取引による原告の損害額は、取引による損害金八六一三万一四六八円と弁護士費用八〇〇万円の合計九四一三万一四六八円である。

第五結語

以上によれば、原告の本訴請求は、主文一項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 大竹昭彦 裁判官岩口未佳は、差し支えのため、署名押印できない。裁判長裁判官 山下寛)

更正決定

原告 X

被告 フジチュー株式会社

右当事者間の平成九年ワ第一一六八七号損害賠償請求事件につき、平成一二年一一月二一日当裁判所がなした判決に明白な誤りがあるので、職権により、次のとおり決定する。

主文

右判決の「第四 当裁判所の判断」記載の「三 争点2(損害額)について」中、1(三)及び4に「八六一三万一四六八円」とあるのを、「八六一三万一四六六円」と、4に「九四一三万一四六八円」とあるのを、「九四一三万一四六六円」と、

各更正する。

平成一二年一二月五日

大阪地方裁判所 第二四民事部

裁判長裁判官 山下寛

裁判官 大竹昭彦

裁判官 渡部五郎

<以下省略>

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